2012年01月21日

金融工学を勉強しよう



期待以上にすばらしい内容でした。
今、世界経済が揺らいでいる根幹の一部を、少しだけ理解できたような気がします。
2004年に書かれた本ですが、もっと早く読んでいれば、2008年のリーマンショックなど、金融危機のニュースを深く理解できたのだろうと思います。
しかも、金融取引を直接には行っていない立場の人も、ニュースを理解するためだけでなく、「生きる力」として役立つように思いました。

「オプション取引」と聞いて、何の事だか分からないという人は、必ず手に取ってみることをオススメします。

仕組み債、金融派生商品、債権化商品、米粒よりも小さい字の説明書。。。
これらが生まれたこと、これらに対する警鐘に溢れた内容です。これが2004年の段階で、こんなにも分かりやすく書かれていたことに、驚きます。

またとても読みやすく、電車内であっと言う間に読めてしまいましたが、「練習問題」もよくできていて、改めて内容の理解を深めることができました。

金融工学を勉強しよう

目次
1 金融工学の重要ポイント(金融工学を勉強しよう
オプション取引は何を取引しているのか
オプションの値動きと「伊藤のレンマ」
ブラック=ショールズモデル)
2 金融工学の実践(オプション取引って何?
個人投資家とオプション―カバードワラントで注意すべきこと
カバードワラントの社会的インパクト
現代金融商品のからくりを暴け―仕組み債の仕組み)
3 金融テクノロジーと現代社会(金融工学は勉強するに値するか
LTCM破綻は「金融工学の破綻」を意味するか?
市場リスク管理の基礎
株価を予測するテクノロジー
金融工学と現代社会)

印象に残った部分を引用。

現代社会では、金融テクノロジーを利用する人が急激に増えたため、その理論背景にある金融工学の考え方が、現代人の考え方に大きく影響を与えるようになりました。われわれは自分たちが住んでいる現代社会を正確に理解するために、金融工学を学ぶ必要に迫られているのです。

P3 はじめに


現在私は大学の教員をしていますが、ほんの少し前までは外資系証券会社に勤務するサラリーマンでした。ハードな業務内容のなか、勉強をするのはもっぱら通勤電車のなかでした。電車のなかは自分自身にとって非常に有意義な学習空間でした。本書は読者が机の上で精読するものではなく、電車の中で立ったまま読めるように、また重要な部分を手っ取り早く理解できるように、書き方、装丁も工夫しました。

P6 はじめに


カバードワラントなどのデリバティブによって、1次資産から「1次資産の複製商品」を簡単に、そしていくらでも、つくりだすことができます。原資産である1次資産(本物の証券)は箪笥の中に眠りながら、それと同じ動きをする複製商品が世の中を闊歩し、現代社会に多大な影響を与えていきます。このことを段階的にみていきましょう。

<1次資産をあえて取引する意味がなくなる>
Tさんの例からわかるように、1次資産(株、債券)を取引するには通常さまざまな障壁があります。しかし障壁にあえてぶつからなくとも同じような取引ができるのならば、効率の良いデリバティブ取引に向かうことが考えられます(ただしデリバティブには、配当、もしくは株主優待はありませんが)。

<1次資産に関する既存の規制が形骸化する>
1次資産の取引を規制しているさまざまな法律(たとえば商法)は、1次資産を取引するかわりにデリバティブを取引していくことによって、乗り越えていくことができます。たとえば商法では株式取引を規制していても、「株式と同じ動きをするデリバティブ」の取引規制はありません。1次資産のかわりにデリバティブを取引することで、既存の規制は形骸化してしまうでしょう。

<いつまでも規制をしつづけている国からお金が流出する>
グローバルな視点に立った場合、より有利な投資を求めてお金が国境を越えていくので、強固な規制策を強固にとりつづけている国から、規制を積極的に撤廃していく国にお金が流出してしまいます。これは、その国の国益上、大きな問題です。

<従来の規制がとりはらわれて金融の仕組みが世界同一化する>
結局、規制を残すことは国家的な視野から不利になるので、各国は既存の規制を撤廃する方向に進むでしょう。それぞれの国が独自に行ってきた規制がとりはらわれることで、世界は同じような金融の仕組みを持つようになることが考えられます。

P104 5章 カバードワラントの社会的インパクト


A債のような仕組み債を投資家に販売する際には、証券会社は適合性原則と説明義務を十分考慮しなければなりません。証券会社はとくに「仕組み債がどのような仕組みになっているか」を投資家に十分説明する義務があります。A債のような仕組み債ではおそらくは目論見書やリーフレットだけでなく、確認書なども配布されるでしょう。すなわち後になって投資家が「聞いていない」ということは、建前上はありえないことになっています。
ところが問題は、「説明があったのか、それともなかったのか」ではなく、「その仕組みについて投資家がどこまで理解しているのか」という点にあります。近年、金融テクノロジーは急激に進歩してきましたが、「新しい金融商品に関する教育」はそれに伴っているようには見えません。
投資家はほんの少しのオプションの知識があればこのような仕組み債の仕組みを理解できますが、そうでない場合、商品の仕組みを十分理解できなまま購入してしまう可能性があります。そのうえ、現在の投資の世界では「自己責任」なる言葉がはびこっています。たしかにかっこうの良い言葉ですが、個人投資家にとって「自己責任」が予想以上に負担になる可能性が大いにあります。

P114 6章 現代金融商品のからくりを暴け


ひとりの人間が世の中にあるすべてのモラルを兼ね備えていないのと同様に、現代金融工学は不完全な部分をたくさん持っています。金融工学は数学的には完成されているものの、それは現実に対する非常に強い「思いこみ」に支えられて
おり、金融テクノロジーの現実への応用にはさまざまな問題があることは事実です。

P127 金融工学は勉強に値するか


1998年9月、LTCM(引用者注:ロングターム・キャピタル・マネジメントは36億2500万ドルの巨額な損失を抱えて破綻します。LTCMの破綻は一ヘッジファンドの破綻にとどまらず、その高収益性に目を付け、そこに投資をしていた機関(米国の大銀行など)の破綻さえ招く可能性がありました。米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は緊急融資を繰り返し、何とかこの危機をおさえました。しかし前年度にノーベル経済学賞を受賞した二人(引用者注:マイロン・ショールズ(ブラック=ショールズモデルの生みの親)と、R.C.マートン(ブラック=ショールズモデルの数学的正しさを証明し、金融工学を発展させた人))への批判が後に噴出しました。おそらくこの二人は「世間に迷惑をかけた希有なノーベル賞受賞者」として語り継がれるようになるでしょう。
しかしながら、LTCMの破綻は世間が誇張するような金融工学の終焉を意味するものではありません。しかし、現代流の金融工学、禁輸テクノロジーの根幹部分の見直しが必要とされています。これからの金融工学に求められるのは間違いなく「流動性リスク」に積極的にたちむかい、そのリスクをヘッジできる理論の構築でしょう。

P132 7章 LTCM破綻は「金融工学の破綻」を意味するか?


銀行、証券会社をはじめとして会社は日々先物投資のようなスペキュレーション(投機)を繰り返しており、多額の市場リスクを抱えています。会社内部に積もった多額の市場リスクが突然顕現して、明日にでも資金繰りが困難になる可能性は、ベアリングスに限った話ではありません。
「では、リスクを抱えなければ良いのでは」
と考える人もいるでしょう。とくに金融機関が毎日行っている先物取引を目にすれば、
「あんな立派な会社が、丁か半かのギャンブルを行っている」
とだれもが思います。
しかし金融機関にとって「スペキュレーション」はある意味では必要悪だといわざるをえません。現代金融機関の大半は株式会社であるため、その行動目的は「株主への利益還元」だからです。たとえば会社の場合でも、日々の営業活動によってお金が不足したり、余ったりしますが、お金が余った場合に、会社の金庫にお金を眠らせておくことは株主ん利益を還元していないことにつながります。1億円の剰余金が発生したとすれば、その会社は資産を運用して、せめて「1億1円」になるように運用しなければなりません。それが株式会社の株主への使命なのです。
だからといってリスクを抱えこみ、ベアリングスのように倒産してしまうならば、これも株主の利益に反する結果となってしまいます。現代の金融機関にはスペキュレーションを必要悪として放置するのではなく、厳密に管理する姿勢が求められます。

P136 8章 市場リスク管理の基礎


リスク管理法の問題点
このように、基礎的な市場リスク管理法では、正規分布(もしくは多変量正規分布)をポートフォリオ収益率に直接的に応用します。しかし、「簡単だから正規分布を応用しよう」とか、「他の会社でも使っているから、わが社もそのリスク管理でいこう」という姿勢は当然ながら問題です。みんあが一律的に同一の分布を使用したら、どうなるでしょう。分布の規定どおりにリスクが制御されるわけですから、現実の収益率は分布の影響を受けます。すなわち分布が現実の市場収益率に跳ね返ってくるという逆転現象がおこる可能性があります。正規分布のお世話になる場合は、現代社会に正規分布を直接刷りこんでしまう副作用を忘れてはなりません。

P141 8章 市場リスク管理の基礎


残念ながら、現代社会では金融工学が皆にとって平等な知識としては普及せずに、中途半端な形で普及してしまったために、いくつかの不幸な状況を招いていると言わざるを得ないでしょう。金融工学を利用した新しい金融商品がどんどん生まれてくることによって、「金融工学を理解した者」と「金融工学を理解していない者」との間で新たなる「富の再分配」が起きているように思えます。(たとえば6章を参照)。それは決して望ましい状況ではありません。
そもそも金融工学以前の問題として、株式や債券といった1次的な資産の市場動向は、勉強したからといって必ずしも正確に理解できるものではありません。9章で見たようにテクノロジーを利用して市場に立ち向かう場合もありますが、それでも確実に儲かる保証はどこにもないのです。しかし、1次的な資産を2次的に取引することを考える金融工学について「理解した者」と「理解していない者」では、多様化した金融商品の理解力に非常に大きな差が生じていることもまた否定できません。
金融工学に関する知識をみんながある程度きちんと理解しておかなければならない時代が到来しているといっても過言ではないと思います。にもかかわらず、その重要性が認識されないまま、無知な状態が放置されたままであるような気がしてなりません。

P153 10章 金融工学と現代社会


オプションの基礎知識を義務教育として学ぶ

筆者は義務教育として、国民全員が、オプションの基礎知識を平等に学ぶべきだと考えています。少なくともオプションの損益(会話編1、2を参照)や時間的価値が減少していくイメージ(会話編2を参照)は、数学を使わなくても十分伝えることが可能です。オプションの基礎知識は、オプション取引のための基礎知識だけでなく、現代社会でよりよく生きていくための基礎知識なのです。

P154 10章 金融工学と現代社会


今後、すべての人々が平等に金融工学の基礎を勉強することができる社会が形成され、知識の格差によって不平等が生ずることがなく、個人投資家が多様なプライシングモデルを手にして、いきいきと取引をしていける市場が実現することを望んでやみません。

P156 10章 金融工学と現代社会

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