2017年05月05日

誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち(黒川 祥子)

虐待を経験した子ども達のその後。
重いですが、真剣に考えなければならない問題でもあり、また、虐待された子が親になってまた虐待してしまっているという個所からは、虐待する親の支援の在り方や寄り添い方をより一層考えさせられました。





目次
第1章 美由―壁になっていた女の子
第2章 雅人―カーテンのお部屋
第3章 拓海―「大人になるって、つらいことだろう」
第4章 明日香―「奴隷でもいいから、帰りたい」
第5章 沙織―「無条件に愛せますか」

印象に残った個所を引用

P14
なぜ、母親が自分の子どもにこのようなことができるのですか? なぜですか?.」
なぜ、なぜ、なぜ……。口をついて出るのはそれしかない。お粗末な取材者に医師は唸る。
「マスコミは、すぐに因果律で考えるからなー」
そして、きっぱりとこう言った。
「こういう親が、現にいるわけです。説明できないマイナスの部分にわれわれは直面していくしかない。言葉で説明できないけれども、こういう親がいる。そこからスタートしないと。虐待は何よりも、子どもの側から見るべきものです。子どもを含めた虐待全体の中で考えていかないといけない」

P15
加害者の奇怪さばかりにこだわることは、虐待の全体像から遠ざかるのではないか。


P19
「虐待を受けた子どもは、とにかく問題行動をひっきりなしに起こす。そして自身の弱さが外に出てイライラが募ると暴れてしまう。つまり、虐待的な対人関係を繰り返すのです。でも子ども同士がお互いに脅威を与えるようでは、安心がもたらされない。安心がないところでは治療ができない。この病棟は、そうした不安定な子どもたちを安心な構造全体で抱っこするというイメージなのです子どもを閉じ込めることが目的なのではなく、守るためのものなんです」


P22
「子ども虐待の対応が後手に回ってうまくいっていないのは、子ども虐待がもたらす後遺症の見立てが甘いところに原因があります。複雑性トラウマというのですが、これは脳に器質的な変化をもたらします。画像などではっきりわかります。非常に重い後遺症が出ているわけだから、薬物療法と生活療法、それと心理療法を組み合わせて治療していくしかないんです」


P23
私を含めてメディアは、これまで虐待の何を見てきたのだろう。報道するのは、虐待を受けた子どもが死亡した悲惨な事件がほとんどだったのではないか。虐待した親を責め、関係機関を叩き、「なぜ、救えなかったのか」と嘆いてきた。「(子ども虐待は)全体の中で考えていかないと」という臨床現場の思いと、大きくかけ離れていたのではないだろうか。


P24
「殺されずにすんで」児童相談所によって保護された子どもたちは、それで一件落着なのか。そうではなかった。


P31
事業としては、決して儲からない。私自身の収入のことだけを考えるならば、外に働きに出た方が収入は上。でもファミリーホームになって、子どもたちもにお金をかけてあげられるようになったから、それはよかったって思っているの。旅行にも行けるし、幼児や小学生の頃から塾や習い事にも行かせてあげられるし


P39
里親たちが、これほど傷つき苦しんでいるとは思いもしないことだった。里親たちを苦しめるもの−−それこそが「虐待の後遺症」なのだ。


P102
なぜ、被虐待児に発達障害の子が多いのか。それは養育者が、発達障害を持つ子どもに対して育てにくさや非社会的な特徴を感じ、それを「しつけ」によって正そうとした時に、あっといいう間に虐待へと横すべりしてしまうという傾向があるからだ。


P109
守られている体験、我慢したら褒められる体験があれば、自分で自分をなだめることができる。そうやって人は苦しいことがあった時に「よしよし、しょうがないよ」と自分を慰め、乗り越える。親に「よしよし」とされてきたことがない場合、苦しいこと、耐え難いことはバーンと外に出してしまうほかない。


P123
「施設にいる間は、三食とも給食でしょう。学校はもちろん給食だし、施設の食事は右から左に、配膳されたものをただ食べるだけ。『あれが食べたい』という自分の気持ちは、何も反映されない彼らは自分の意思を伝えて、それがかなったという経験がないの。だって、わが家に来たことだって、彼らの意思じゃないんだもの」


P124
このたちが将未のビジョンも持てず、学習意欲も持てないのは当たり前だって思ったんです。自己決定の喜びも、自己決定による責任も知らないため、逆にうまくいかないと、よそに責任転嫁をし てしまい、怒りを向けてしまう」
彼らに自分の人生を自分で決める喜びを知ってほしい。朋子さんが彼らを引き取って以来、心から願うことだった。
だから、朝食をセレクト制にした。昼食はそれぞれが幼椎園や学校での給食となる。栄養面を考えると難しい、でも朝食ならなんとかなる。
「施設で育った子に、自分で選ぶこと、選ぶ喜びを知ってほしい。そして選んだ以上、自分の責任だから残さず食べようねっていう、声かけなんです」


P213
お腹を痛めて自分を産んでくれた唯一無二の母親という存在から見捨てられる、切り離されるということは、自分自身の存在の否定につながるほど切実なことだった。明日香ちゃんも唯真ちゃんも自分をなげうってまで、母親と細い糸一本でつながろうとした。つながるために、母をどんどん理想化して現実から目をそらす。そうでなければ、なぜ自分がこの世に生まれ落ちたのか、その理由が消えてしまうとばかりに。確かに、自分の恨っこがないという感覚で生きていくのは、誰しも難しい。
一般に「親の、子への愛は無償だ」と言われるが、虐待を見ていく限り、それは逆だとしか思えない。子の、親への愛こそが無償なのだ。


P222
「喪失」の問題を埋めていくためには、親を恨みっぱなしで切ってしまうのでも、明日香ちゃんのように現実から目を逸らして理想化するのでもなく、現実を現実として受け止めていくことが大切なのだという。


P231
「上の子は女の子だからなのか、育児のたびに否が応でも自分とかぶるんです。育児をするうえで、フラッシュバックを体験するというか……。『あの子歩いたな、よかったな。うれしい』って思った瞬間、『誰が私が歩いたのを喜んだ?誰が私が歩いたのを見ただろう」って、だんだん上の子に当たっていくんです。こういうのを成長の節目、節目に思うんです。クリスマスも誕生日も私にはなかった。なのに、娘がプレゼントに文句言ったりするのが、とにかく許せない。娘は広汎性発達障害で、三歳まで夜中でも一時間ごとに起きていました」 クリスマスも誕生日もなかった子ども時代。沙織さんの年代の子どもにとって、それは「普通」の育ち方ではない。両親の愛惰に包まれて育ったのではないと、その事実が語っていた。


P232
「してもらえなかった自分」の悔しさや悲しみが子どもの成長の節目ごとに湧きあがってくるのが、被虐待児にとっての子育てなのか。だとすれば、それは何と困難なことだろう。


P235
ネグレクトを「発見」するために、歯科医の協力を得る自治体が多いのも、養育放棄が虫歯に端的に表れるからだ。


P254
あいち小児では親の側にもカルテを作り、「親子並行治療」に取り組んでいるが、診察室にやってくる被虐待児の親の多くが、「未治療の被虐待の既往」を持っており、とりわけ深刻なのが性的虐待による後遺症なのだという。


P262
カウンセラーから言われた「子どもを自ら児相に預けたことは、あなたが子どもを守った、立派な行動だった」という言葉も、自信につながった。


P274
「研ぎ澄ましていないと、思いやりの行いができない。"ありのままでよい"ということが、難しい。わからない」 ありのまま、確かにそれは私でも難しい。でも沙織さんの場合は、拠って立つ足元の土台を探すという作業から始めなけれはならないのだ。


P278
「そういう時のために私たち里親がいるんだわ。ゆめちゃんを里親に託してはしい。彼女はよくがんばったと思う。育てにくい子どもを、よくそこまで育てたよ。養育里親なら実親さんとの関係を大事にしていくから、安心して預けて、今は子どもさんと離れて休んでほしい。私たちは親御さんにもラクになって、子どもといい関係を作ってほしいと思っているから」
友紀さんの言葉に、涙がこぼれた。その通りだ。沙織さんと夢ちゃん母子のような親子のために、こういう人たちがいてくれる。

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posted by わけい at 15:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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